カジノ法案によるデメリット・問題点

カジノ法案は、正式名称『Intergrated Resort 推進関連法案』(通称『IR推進法』)と言い、2016年12月に成立・施行されました。
この法案は『観光先進国』としての経済復興に向けて、国際イベント施設や宿泊施設・娯楽施設などをメインとした統合型リゾート(IR)設置を推進していくものです。

そのため、日本でのカジノを合法化するための法律ではありません。

あくまでもIR施設のわずか3%に特例としてカジノ設置が許可され、その収益はIR事業の向上や都道府県の認定区域整備計画などに還元される予定となっています。
しかし、特例や収益の使い道が公益のためだとしても、デメリットや問題点もあるのではないか?との懸念から議論は止みません。
一体カジノ法案にどのようなデメリットや問題点があるのか?詳しく解説していきます。

この記事を読んだらわかること
  • カジノ法案で考えられる4つのデメリット・問題点
  • 海外のカジノ誘致で起こった問題例
  • 日本のカジノ法案で何が求められるか

カジノ法案の4つのデメリット・問題点

カジノ法案では、主にマネーロンダリングギャンブル依存症・汚職問題などが懸念され議論されています。
これらのデメリットについての詳細を解説していきましょう。

マネーロンダリングの問題

カジノ法案で懸念されている大きな問題点は、『マネーロンダリング』です。

マネーロンダリングとは、麻薬・脱税・詐欺・粉飾決済・盗難など、犯罪行為で得た資金の出所をわからなくする手口のことを言います。
別名『資金洗浄』とも言われ、普通ではアシがつくために自由に使えない金(汚れた金)を、幾度も移動(洗浄)させながら、正式に稼いだ資金のように見せかけるのが特徴です。

歴史的にもカジノではマネーロンダリングが行われてきており、富裕層の脱税だけでなく麻薬やテロなどの犯罪組織の温床と指摘されてきました。
そのため、日本のカジノ併設によって犯罪組織の温床となるのではないか?と懸念されています。

実際、世界と比べて日本はマネーロンダリングについての取締りが緩く、米国の取締り機関『FATF』から『法整備不十分』と指摘されています。
カジノ法案を進めるにあたって、日本政府のマネーロンダリング対策がどのように進むかが注目されます。

マネーロンダリングについてさらに詳しく知りたい人は、以下のリンクをご覧ください。

「マネーロンダリング」の問題点について詳しく見る

ギャンブル依存症の問題

『カジノ』と聞いて多くの人が思い浮かべる問題点の1つが、『ギャンブル依存症』でしょう。

ギャンブル依存症とは、アルコールや薬物のようにギャンブルにのめり込み、やめられなくなってしまう病気です。WHOによって『病的賭博』として正式に病気と認められました。

この病気は、自己破産や失業・人関係問題・自殺・家庭崩壊などにより、治安の悪化や労働力の減少・社会保障費の増加など日本社会にもあらゆる弊害を生み出します。
しかし、アルコールや薬物と違って身体症状がないため、周囲が気づかぬうちに破綻状態になってしまうという恐ろしさがあります。

日本は競輪・競馬などの公営ギャンブルだけでなく、世界の中でもパチンコ・パチスロなど身近なギャンブルが多い国です。依存症が疑われる人は約320万人、その割合は世界各国と比べても2〜3倍以上にものぼります。

IRのカジノ併設により、ギャンブル依存症がさらに増加して社会問題になるのではないか?と懸念されています。

「ギャンブル依存症」の問題点について詳しく見る

カジノ誘致による汚職問題

カジノに限ったことではありませんが、大金が動く事業では、利権を得ようとする個人や組織による汚職問題が発生するケースがあります。
例えば、1993年のゼネコン汚職事件や2018年の文部科学省汚職事件など、汚職事件をあげればキリがないでしょう。

カジノ法案についても、そういった汚職問題が発生するのではないかと、以前から懸念されていました。

実際、2019年12月にIR担当副大臣がカジノ誘致による汚職事件により逮捕され、物議を醸しています。

この事件はその後進展を見せており、IR汚職に関わった秋元議員には実刑判決が下されてました。

この汚職問題がどのような内容だったのか?なぜそのような汚職問題が発生してしまうのか?は、以下の記事で詳しく解説していきます。

「汚職問題」の問題点について詳しく見る

周辺地域の治安悪化問題

カジノ併設にともなって、浮浪者やマフィアなどの犯罪組織が集まるのではないか?周辺地域の治安が悪化するのではないか?との懸念もされています。

基本的にカジノは、統合型リゾートのわずか3%の面積に設置される予定です。それ以外の面積は全てMICE施設やレジャー施設、ホテルやショッピング施設などが設置されます。こういったリゾート施設は海外でも1日中賑やかで、雰囲気が明るい場所が多いのが特徴です。

カジノも富裕層がターゲットなので、海外のIR施設に併設されたカジノも富裕層の社交の場という雰囲気があります。

ただし、マネーロンダリング等を企む個人・組織マナーの悪い観光客が訪れる可能性は否めません。適切な法整備や警備の強化など、政府の対策が求められます。

海外のカジノ誘致問題例

ここからは、海外のカジノ誘致で発生したデメリット問題例を具体的に紹介していきます。

韓国における失敗事例(治安の悪化)

韓国にはカジノが17箇所展開されていて、基本的に韓国在住の韓国人は入場禁止となっています。しかし、唯一自国民の入場が許された『江原(カンウォン)ランド』は、有名な失敗事例の一つです。

江原ランドは、旧産炭地で衰退した地元経済の復興を見込んで、韓国人と外国人が入場可能というコンセプトで建設されました。
韓国人の入場料はわずか9000ウォン(約900円)程度で、入場者の99%は自国民・残る1%が外国人と、韓国在住の韓国人プレイヤーの割合が高いカジノでした。

カジノは連日大盛況で、利益は韓国内のカジノの収益の約半分を締めるほどになりましたが、自国民のギャンブル中毒者が激増しました。
カジノ周辺には負けた人用の質屋や買った人用の風俗店などが立ち並び、住居を失った多くの『カジノホームレス』が街中にたむろするようになりました。

その結果、地域の人口は減少し小学校まで隣町へと移転するまでになったのです。

この失敗事例は、ギャンブル依存症対策などがされる前に、先行してカジノのみをオープンさせてしまったことや、自国民の入場規制が緩かったことなどが原因だと言われています。

フィリピンにおける失敗事例(マネーロンダリング)

フィリピンは、カジノに限らずマネーロンダリングで利用されることが多い国の一つです。
2001年に資金洗浄防止評議会(AMLC)が成立されましたが、銀行の守秘義務が世界で最も厳しい国でもあるため、捜査されにくい一面を持ち合わせています。

そういった背景から、国際的なマネーロンダリング対策機関であるFATFから2005年までブラックリストに掲載されていました。
現在は、国を挙げての規制強化によりブラックリストから外されていますが、米国務省から『資金洗浄の拠点』と指摘されるなど、改善は困難を極めています。

実際に、2016年にバングラデッシュ中央銀行がハッキングされ、約8100万ドルがフィリピン銀行に送金されるという事件が発生。この事件ではフィリピンに渡った不正な金が、カジノを通して資金洗浄されたことで話題になりました。

AMLCではこの事件を受け、2017年にカジノを規制の対象に追加し、改善に向けて努力しています。

過去の事例:ラスベガスの反社会勢力の関与

これは過去の失敗事例になりますが、カジノで世界一有名なラスベガスは、かつて反社会勢力の関与による治安の悪さが問題となっていました。

ラスベガスは元々砂漠地帯のオアシスで、収益源となる産業に乏しい町です。
1929年頃のウォール街暴落による大恐慌で財政難に陥ったネバダ州は、ダム建設で街の復興を遂げますが、それまで禁止していた賭博合法化も行ったことで状況は一変しました。

マフィアのボスがカジノ事業に参入し大規模なカジノホテルを建設すると、様々なマフィアもカジノ事業に参入。
マフィア同士の抗争や組織犯罪が蔓延するようになり、治安も悪化しました。

そこで州はマフィア排除に向けて取締りを強化し、大富豪ハワード・ヒューズによって大規模なカジノ買収が行われたことで、マフィアを一掃。
州による厳格な規制と大企業の透明性の高いカジノ運営により、ラスベガスの治安は改善しました。

日本でもラスベガスの事例を参考に法整備が進められていますが、まだまだ整っていないのが現状です。

【まとめ】カジノ法案の設立はメリットも大きいがデメリットも大きい

カジノ法案の設立・カジノ誘致は、収益増加による経済効果や地域活性化などのメリットも大きいです。
しかし、上述したように適切な規制や対策を行えなければ、地域の安全性や信頼性を揺るがしかねない危険性もはらんでいます。

大切なのは、『景気の起爆剤でもあるが、劇薬にもなり得る』という現実を忘れないこと。

犯罪防止の取締りを強化し、国民を守るために入場規制や依存症対策を厳格に行いながら、透明性の高いIR運営が求められます。

この記事のおさらい
  • カジノ法案で、マネーロンダリング増加の懸念がある
  • カジノ誘致によるギャンブル依存症の増加の懸念がある
  • カジノ誘致による汚職問題発生の懸念がある
  • カジノ誘致による周辺地域の治安悪化の懸念がある
  • 諸外国の問題例を踏まえて、取締りや法整備を強化することが重要