カジノ法案のデメリット:
ギャンブル依存症
2016年12月に成立されたカジノ法案は、正式名称を『Intergrated Resort 推進関連法案』(通称『IR推進法』)と言います。日本初のIR施設で多くのインバウンドを誘致し、経済復興の起爆剤としていくことを目的としています。
そのため、日本でカジノを合法化する法律ではありません。
あくまでも国際イベント施設や宿泊施設・娯楽施設などをメインとした統合型リゾート(IR)設置が目的であり、カジノはIR施設のわずか3%に特例として併設が認められる形です。
しかし特例として認められるとは言え、カジノが設置されることでギャンブル依存症やマネーロンダリング、汚職問題など様々な問題が起こるのではないか?と懸念されています。
今回は、その問題点・懸念点の1つであるギャンブル依存症について詳しく掘り下げていきたいと思います。
- ギャンブル依存症の基礎知識
- 日本人のギャンブル依存症率が高い現状
- カジノ保有国ではどのような依存症対策が取られているか
- 日本ではどのような依存症対策が検討されているか
目 次
ギャンブル依存症とは?
ギャンブル依存症とは、アルコールや薬物のようにギャンブルにのめり込み、やめられなくなってしまう病気です。1977年にWHOによって『病的賭博』として正式に病気と認められました。
この病気は、自己破産や失業・人関係問題・自殺・家庭崩壊などにより、治安の悪化や労働力の減少・社会保障費の増加など日本社会にもあらゆる弊害を生み出します。
しかし、アルコールや薬物と違って身体症状がないため、周囲が気づかぬうちに破綻状態になってしまうという恐ろしさがあります。
そのため、診断の際にはアンケート形式のスクリーニングテストによって現在の患者の状態を確認します。
他国の約3倍と言われる日本人のギャンブル依存症率
日本にはカジノ法案が検討される以前から、身近にギャンブルが溢れている国です。
宝くじ・競輪・競馬など国が認めた公営競技があり、駅前にパチンコ屋があったりと、誰でも簡単にギャンブルの扉を開ける環境となっています。
しかし、依存症に対するボランティア団体はあるものの、国を上げての依存症対策はこれまでしっかりと行われていませんでした。
そのため依存症になってしまう人が増加し、2017年の調査でギャンブル依存症が疑われる人は約320万人、生涯の有病率も3.6%となりました。これは他国の約3倍の割合です。
例えばイギリスでは、スポーツ賭博のブックメーカーなどの店舗数が9000店以上もあるギャンブル大国ですが、依存症率は0.5%に留まっています。
これは、英国カジノ評議会が運営するギャンブル依存症対策のプログラムや規制がしっかり働いているための効果と考えられます。
また、イギリス以外でもカジノを誘致している諸外国では、依存症に対する厳格な規制や様々な取り組みが行われています。
カジノ法案が勧められている日本では、こういった依存症への取り組みが遅れているため、IR施設オープンまでに早急な対策が求められています。
海外のカジノ保有国によるギャンブル依存症対策
日本ではカジノ法案推進に当たり、諸外国のギャンブル依存症対策を参考にすると言われています。
ここでは、日本が参考にする可能性が高いシンガポール・ラスベガス・韓国の3か国で行われている依存症対策を紹介していきましょう。
シンガポールのギャンブル依存症対策
シンガポールでは、2010年頃に『マリーナベイ・サンズ』と『リゾート・ワールド・セントーサ』の2つのIR施設が設置されています。
いずれも元は、日本の石原元都知事が1999年に提唱した『お台場カジノ構想』からヒントを得ており、MICE施設やレジャー施設などがメインとなっているのが特徴です。
カジノは施設全体の3%の敷地面積に設置されていて、日本で設置される予定のIR施設のモデルケースともなっています。
シンガポールでは、IR設置の際に国民のギャンブル依存症対策として以下の規制を設けました。その結果、IR施設設置以前は4.1%だった依存症率を0.7〜0.9%にまで減少させることに成功しています。
- 入場料の徴収(1回24時間有効で約8000円、1年間有効で約16万円)
- 厳格な身分証チェック
- 入場回数制限
- 事前申告制度の導入
- 本人や家族による入場禁止申請の導入
アメリカ・ネバダ州のギャンブル依存症対策
カジノで最も有名な地と言えばアメリカ・ネバダ州のラスベガス。
産業としてカジノを解禁してからマフィアが参入し、治安の悪化やギャンブル依存症の増加に悩まされました。
その後、ネバダ州は規制の強化や企業買収によるマフィアの排除を行い、治安は改善。ギャンブル依存症対策にも取り組み、現在はクリーンな運営が行われています。
ネバダ州では、シンガポールのような入場料の徴収や回数制限は行なっていませんが、『アンバサダープログラム』が用意されています。
このプログラムは、カジノ従業員に対して依存症に対する教育を徹底し、依存症の可能性があるカジノ客をカウンセラーに誘導するものです。
また、それ以外にも運営業者に対して規制を強化し、ギャンブル依存症対策を行なっています。
韓国のギャンブル依存症対策
韓国は1967年のカジノオープン以来、全17箇所のカジノが運営されています。
唯一韓国人の入場が認められている『江原ランド』を除いた全てのカジノが外国人専用となっていて、韓国在住者は入場が禁止されています。
しかし、韓国在住者の入場が唯一できる『江原ランド』は、内国人の入場料がわずか900円程度と手軽だったため、国内の依存症患者を増加させてしまいました。
そのため、『江原ランド』に限って韓国カジノ誘致の有名な失敗例となっています。
『江原ランド』は1998年に設立されましたが、依存症患者の増加を受けて2001年に韓国政府によって『賭博中毒センター』が設けられ、依存症対策に乗り出しました。
現在は入場時の本人確認が徹底されており、資金が尽きた際のカジノ側から利用者への貸付を禁止したり、ATMの設置に制限を設けたりしています。
日本が導入を提示するギャンブル依存症対策
日本では、IR施設設置で懸念されているギャンブル依存症に対して、どのような対策が検討されているのか?それぞれの概要を解説していきます。
入場料の徴収
日本に設置されるカジノでは、外国人観光客の入場料は無料です。しかし、日本人と日本に在住する外国人は1日(24時間以内)に6,000円の入場料が必要です。
この金額は1人当たりのGDPに換算すると、ギャンブル依存症率の減少に成功しているシンガポールより高い入場料となります。
マイナンバーカード・専用IDの提示
諸外国ではカジノ入場時に身分証で本人確認をし、カジノ客の入場回数や滞在時間の把握が行われています。
日本でもマイナンバーカードや専用IDでの本人確認が義務化される予定となっています。取得情報はカジノ管理委員会によって入場回数などの把握に用いられる見込みです。
入場回数の制限
入場料や本人確認以外に、1週間以内に3回・28日間以内に10回までの入場回数制限が導入される予定です。
また、20歳未満も入場が禁止されます。
チップの購入制限
訪日外国人はチップの購入にクレジットカードが使えますが、国内在住者はクレジットカードが使えず現金での購入となります。また、カジノ施設内でのATM設置も禁止される見込みです。
日本がカジノを誘致する前に『ギャンブル依存症』について知識を身に付けておこう
日本は、世界でも高いギャンブル依存症の保有率を抱える『ギャンブル大国』だと言われることがあります。
しかし、日本以上にギャンブル先進国であるイギリスの依存症率が低い点や、シンガポールでIR設置から依存症率が下がった点を踏まえると、依存症対策をいかに厳格に行なっていくか?が重要であるとも言えます。
そのためには、ギャンブル依存症についての知識をしっかり身につけ、諸外国の事例を参考にしながら事前に対策を行なっていくことが、非常に重要なのです。
- 日本のギャンブル依存症率は諸外国の3倍
- 諸外国では、ギャンブル依存症に対して様々な規制や取り組みが行われている
- 日本でも諸外国を参考に、依存症に対する規制や取り組みが検討されている