カジノ法案のデメリット:
汚職問題

2016年12月に成立されたカジノ法案は、正式名称を『Intergrated Resort 推進関連法案』(通称『IR推進法』)と言います。日本初のIR施設で多くのインバウンドを誘致し、経済復興の起爆剤としていくことを目的としています。

しかし、カジノ法案は国を挙げた莫大なプロジェクト。
こういった大きなプロジェクトでは利権がらみの汚職事件の温床になりやすく、今回のカジノ法案の推進で汚職事件が発生し逮捕者も出ています。

このままカジノ法案を推進していくと、過去に発生したリクルート事件やロッキード事件のようなことが蔓延するのではないか?と懸念されており、議論が絶えません。

今回は、カジノ法案の問題点・懸念点でもある汚職問題に的を絞って、詳しく解説していきます。

この記事を読んだらわかること
  • カジノ法案の汚職問題の基礎知識
  • カジノ法案に関する国内外の汚職事例
  • カジノ法案で汚職問題が発生する理由

カジノ法案((IR法案)の汚職問題とは?

カジノ法案では、運営方法や規制など様々な取り組みの議論後に、実際に建設する場所(候補地)と建設に携わる業者(民間事業者)を認定していきます。
そして、認定された候補地と事業者が国の監督の下、実際のIR施設建設を行なっていく予定です。

ちなみに1つのIR施設設置には、およそ1兆円規模の建設費用が動くとも言われており、その後のメンテナンスや運営などを担っていきます。
そのため、民間事業者にとって国と候補地に認められれば、莫大な利権の獲得となるのです。

実際に、自民党議員でIR担当副大臣である秋元司氏が、民間企業から裏金を受け取ったという収賄疑惑で逮捕された事件は記憶に新しいでしょう。

カジノ法案に関する汚職問題・事例

統合型リゾート施設開発を推進するカジノ法案では、どのような汚職問題や事件が発生しているのでしょうか?
ここでは、実際に起きた国内外の事例を振り返ってみましょう。

【収賄額約760万円】現役議員による中国企業との収賄

まずは、2019年12月に逮捕騒動があった汚職事件です。

日本のIR事業を巡る問題で、衆議院議員の秋元司氏が中国企業『500ドットコム』から賄賂を受領したり、講演料などの金銭を受け取ったりしていました。

500ドットコムは、元々スポーツくじやオンラインゲーミングを展開していた企業です。ニューヨーク取引所に上場していますが、中国が宝くじなどの規制を強化した頃から業績が下がり赤字となっていました。
業績悪化に陥った500ドットコムは日本のカジノ法案に目をつけ、政治家に取り入ってIR事業に参入しようとしたと見られています。

秋元氏は国土交通副大臣とIR担当副大臣を兼務していて、500ドットコムから約760万円相当の額を受け取っていた疑いです。その内訳は以下の通りです。

  • 秋元氏の国土交通副大臣兼IR担当副大臣の人事を見越した巨額の講演料(200万円)
  • 中国・マカオのカジノ施設視察旅行の旅費・宿泊費など(185万円)
  • 選挙中の陣中見舞い(300万円)
  • IR候補地・500ドットコムの参入予定地である北海道への家族旅行費(76万円)

この事件は現在も進行中で、秋元氏は保釈金3000万円を支払い、同じように汚職に問われている5人の議員との接触制限を条件に保釈されています。

裁判でどのように判断されるかがこれからの焦点ですが、こういったカジノ法案に対する汚職は政権だけでなく、関わった候補地など民間のイメージも著しく下げる可能性があります。

この事件の詳細はこちら:【IR汚職】秋元司議員更なる買収工作主導!実行役はいずれも有罪

【除名処分も】中国企業から現金100万円を受領した衆院議員

上記の秋元司氏の汚職事件で、贈賄側の中国企業『500ドットコム』側の供述により、秋元氏以外にも5人の現職議員が現金100万円を受領した疑いがかけられています。
そのうちの4人は容疑を否定していますが、元郵政民営化担当相の下地幹郎議員は受領を認めて「日本維新の会(沖縄)」から除名処分を受けています。

その他に疑いがかけられている現職議員は以下の通りです。

  • 中村裕之(前文部科学省政務官)
  • 岩屋毅(前防衛相)
  • 船橋利実(衆議院議員)
  • 宮崎政久(法務政務官)

ただし、この4人に関しては過去の事件に比べて受領額が少ないことが考慮されて、起訴が見送られています。

【運営会社への家宅捜査】大手パチンコ会社のIR汚職関与

今回のカジノ法案に関わる汚職事件では、大手パチンコホールの『ガイア』がカジノ利権に関与している疑いで、家宅捜索を受けました。
ことの発端は、秋元氏の元政策秘書が設立した『ATエンタープライズ』に、毎月40万円が顧問料として振り込まれていたことです。

『ATエンタープライズ』は芸能ビジネスを手掛ける会社で、秋元氏の元政策秘書の後任として現在は秋元氏の元秘書が代表取締役を務めています。
また、監査役として秋元氏と同苗字の女性が務めていた経緯や、所在地が秋元氏の後援会の元所在地である点など、関連性の深さが調査されています。

【海外事例】韓国の江原カジノ元社長の不正採用

カジノ法案で汚職が起きているのは日本だけではありません。
例えば、日本より早くカジノを設置しはじめた韓国では、内国人も利用できる唯一のカジノ『江原ランド』の雇用で不正採用が起こっています。

江原ランドでは、2012年〜2013年までに2度の雇用を行い、計512人が採用されました。
しかし、そのうちの226人が国会議員や社外取締役・外部機関用心・地域有志などに関連する不正採用だったため、合格取り消しとなっています。

江原ランドは、この汚職以外にも国内のギャンブル依存症増加や治安が悪化した原因ともなっていて、17箇所あるカジノの中でも失敗したカジノとして有名です。

カジノ法案でなぜ汚職問題が起きるのか

日本のカジノ法案で、今回なぜ汚職問題が起きたのか?そのメカニズムに迫っていきましょう。

上記でも触れましたが、カジノ法案(IR事業推進)は、日本国内でも新しい施策の一つであり、カジノ誘致に成功した地域の経済効果は、1兆円以上とも言われています。
特に開発・運営に当たる事業者には利権が多く関与するため、法律に違反した汚い手を使って誘致させたい人も少なくありません。

また、候補地や事業者の認定プロセスに汚職問題が起きやすい構造があるとの指摘もありますが、どのプロセスでも汚職問題は起きる可能性があります。

例えば、以前は『国が候補地を選定し、認定された地域が事業者を選定』という英国式プロセスだったものが、現在は『地域が事業者を公募して認定し、その地域と事業者の構想案を国が選定』という米国や豪州式のプロセスに変更されました。

これは、候補地や事業者を2段階方式で選定すると、膨大な時間や手順がかかってしまう懸念から変更されたものと見られます。しかし、どちらにしても莫大な利権が関与する以上、汚職が発生する可能性は否めません。

米国カジノ汚職例:Casinos and Political Corruption in the United States: a Granger causality analysis

さらに、例えば現在のPFI法に似た公民連携方式でなく、従来の公共事業のように官と事業者を分離した方式にしたとしても、ゼネコン汚職事件のようなことが起こる可能性もあるのです。

参考:PFIとはどのような手法か

カジノ法案に限らず、汚職を防止していくためには認定プロセスや事業形態だけではなく、厳格な規制や政治倫理を正していくことも重要課題となってきます。
時には、政治的腐敗や汚職の少ない国ランキングでトップを飾る『デンマーク』や『ニュージーランド』などの例も参考にしながら、クリーンなプロジェクトが行われる必要があるでしょう。

参考:腐敗認識指数 国別ランキング・推移

カジノに対する印象を下げる汚職問題も詳しく知っておこう

前述しましたが、カジノ法案はカジノを我が国で合法化する法律ではありません。

MICE施設やレジャー施設・宿泊施設・温浴施設などがメインの統合型リゾート設置を推進するための法律です。
また、リゾート全体のわずか3%にカジノ併設が見込まれていますが、カジノを嗜みとしている海外富裕層がターゲットとなっていて『海外富裕層の誘致』という狙いもあるのです。

以前からカジノ法案で汚職の懸念は議論され、実際に汚職事件が発生してしまいました。

しかし、低迷する日本経済の起爆剤になるような莫大なプロジェクトなら、カジノ法案でなくても利権がらみの汚職問題が起こりえます。
まずは厳格な取締りや政治倫理の改善などが行われ、汚職の少ないクリーンな政治体制となることが望まれます。

この記事のおさらい
  • カジノ法案は莫大な利権が発生するため、汚職問題が起きやすい
  • 日本だけでなく海外でも汚職問題が発生している
  • カジノ法案に限らず国を挙げたプロジェクトは汚職問題が発生しがち
  • 厳格な取締りや政治倫理の改善を行い、透明性の高い政治が行われることが重要