カジノがマネーロンダリングの温床になる理由
2016年12月に成立されたカジノ法案は、正式名称を『Intergrated Resort 推進関連法案』(通称『IR推進法』)と言います。日本初のIR施設で多くのインバウンドを誘致し、経済復興の起爆剤としていくことを目的としています。
そのため、日本でカジノを合法化する法律ではありません。
あくまでも国際イベント施設や宿泊施設・娯楽施設などをメインとした統合型リゾート(IR)設置が目的であり、カジノはIR施設のわずか3%に特例として併設が認められる形です。
しかし特例として認められるとは言え、カジノが設置されることでギャンブル依存症やマネーロンダリング、汚職問題など様々な問題が起こるのではないか?と懸念されています。
今回は、その問題点・懸念点の1つであるマネーロンダリングについて詳しく掘り下げていきたいと思います。
- マネーロンダリングには3つのプロセスがある
- カジノでマネーロンダリングが行われやすい理由
- 実際に発生したマネーロンダリング事例
- 日本のカジノ法案のマネーロンダリング対策
目 次
【3つの単語から紐解く】マネーロンダリングとは
マネーロンダリングとは、麻薬・脱税・詐欺・粉飾決済・盗難など、犯罪行為で得た資金の出所をわからなくする手口を言います。
別名『資金洗浄』とも言われ、普通ではアシがつくために自由に使えない金(汚れた金)を、幾度も移動(洗浄)させながら、正式に稼いだ資金のように見せかけるのが特徴です。
資産家の脱税目的や、麻薬密売組織やテロ組織の資金源としてマネーロンダリングが行われることが多く、9-11同時多発テロ以降は犯罪組織撲滅に向けて世界的に規制が強化されました。
マネーロンダリングの手口は以下の3つの仕組みがキーポイントとなります。
- プレースメント(預入)
- レイヤリング(分別)
- インテグレーション(統合)
これらの仕組みがどのようなものであるのか?詳しく見ていきましょう。
プレースメント(預入)
プレースメントとは、犯罪行為で得た『汚れた金』を金融システムや合法的な商取引に取り込むプロセスです。例えば、以下のような例があります。
- 少額に分割して複数の銀行口座に入金する
- カジノに現金を直接持ち込む
- 少額に分割して海外送金する
- 少額に分割してトラベラーズチェックに換金する
カジノでは高額な現金も受け入れるため、直接現金を預けてチップに変えてしまうケースは少なくありません。
また、多くの国で1万ドル以内なら調べられずに現金の持ち出しが可能なので、複数の実行犯が1万ドル以下の現金をカジノへ輸送するケースもあります。
レイヤリング(分別)
レイヤリングでは、プレースメントで取り込んだ不正な金を複数回移転させることで、資金の出どころをわかりづらくします。
例えば、以下のような例があります。
- 複数の銀行口座で何度か送金を繰り返す
- 不動産・宝石・自動車など高額商品を売買する
- 海外のペーパーカンパニーに資金を移動する
プレースメントだけの段階では監視の目に発見される可能性があるので、上記のような行程で資金の流れを複雑化して監視の目を逃れるのが目的です。
カジノの場合では、不正な金をチップ化した後に賭博で勝ったり負けたりを繰り返し、再度チップから現金に換金して『カジノで勝ったお金』という大義名分を得る、などの方法があります。
インテグレーション(統合)
インテグレーションは、様々な取引によって不正な金とわからなくした資金を、合法的に回収していくプロセスです。
例えば、ペーパーカンパニーを通して不動産・宝石・自動車などを取引し、正当な取引で収益を得ているように見せかける手段は少なくありません。
また、レイヤリングした金を合法的なビジネスで資金提供などに当てるケースなどもあります。
さらにカジノにおいても、複数の実行犯がお互い関係のない客を装って同テーブルにつき、勝った実行犯にお金が流れるように賭け、後で獲得チップを現金に換金するという手口があります。
カジノがマネーロンダリングに選ばれやすい理由
マネーロンダリングの手口は非常に様々なものがありますが、その中でもカジノを使った手口は選ばれやすい傾向があります。その理由は以下の2つです。
- 換金しやすい
- チップを仲間で共有しやすい
これらの理由を詳しくみてみましょう。
換金しやすい
そもそもカジノは大きな金が常に動いている場です。
ラスベガスでも1店舗の1日の売上が約1億円・マカオでは約3.5億円となっており、個々の取引を含めると毎分一千万円以上のお金が動いていると言われています。
そのため、銀行口座などに犯罪収益を振り込む際に大金だと怪しまれますが、高額ベットをする富裕層も多いカジノなら怪しまれません。
そして、犯罪収益をチップに交換後は『カジノで勝ったお金だ』と言い張って再度現金に換金すれば、マネーロンダリング完了となってしまいます。
カジノでは一般的に監視ルームで厳格な監視がされていますが、複数人の実行犯が複雑なプレイをしていれば、監視の目を逃れる可能性もあります。
つまり、正当な取引でお金をやりとりしているように見せかけて大金を移動することも可能なのです。
チップを仲間内で共有しやすい
カジノのテーブルゲームでは、現金ではなくチップで賭けが行われるのが一般的です。チップはカジノ内で何度も賭けができるお金で、現金と全く同じ金額で同じ役割を持っています。
また、換金したチップはカジノ内であれば客同士の受け渡しも簡単に行うことができてしまいます。
例えば、友人や意気投合した客同士という設定で『相手の賭けに自分のチップを預ける』ということも、カジノでは不自然ではありません。
マネーロンダリングで取引を複雑にし、正当な理由で現金化するには、カジノは格好の場所なのです。
実際に行われたマネーロンダリング事例
ここまでマネーロンダリングの様々な手口を解説してきましたが、過去に実際に行われたマネーロンダリングの事件例を紹介していきます。
【海外の事例】マカオのカジノや銀行で資金洗浄
マカオは、元々マネーロンダリングが行われることで有名な地です。
2005年9月には米財務省がマカオ大手銀行である『バンコ・デルタ・アジア』を『資金洗浄疑惑銀行』に指定しました。
この銀行では北朝鮮と様々な不正取引が行われてきており、米国から銀行への告発と制裁を受けて翌年に北朝鮮が7発のミサイルを発射するなど、銀行と北朝鮮の密接度が露わになりました。
こういったマネーロンダリングが横行するマカオでは2001年以降、中国政府のリゾート計画によって多数のカジノが建設され、脱税目的の多くの中国人富裕層の温床となりました。
現在は中国政府の不正撲滅運動によって、中国人VIP客ではなくカジノを利用しない一般層をターゲットにビジネスモデルを転換し、取り締りも厳しくなっています。
一般客受けするIR施設の建設や規制強化を行いながら、2019年には国際的なマネーロンダリング対策機関(FATF)による『40の勧告』を全てクリアしました。
マカオの事例は、カジノの運営方法と規制について深く考えさせられるものです。
【日本の事例】指定暴力団による資金洗浄
マネーロンダリングが行われた事例は海外だけではありません。
カジノではありませんが、日本でもあまり知られていないだけでマネーロンダリングは発生しています。
特に2003年に明るみになった五菱会事件は、『日本初の本格的マネーロンダリング』として話題になりました。
五菱会事件は、チューリヒで『クレディ・スイス銀行香港支店』の日本人口座が凍結されたことで発覚。その口座は指定暴力団山口組系のもので、国内で行われたヤミ金収益のマネーロンダリング先でした。
この事件では山口組系メンバーとクレディ・スイス香港支店元行員が逮捕されています。しかし、英米では裁かれる脱税収益罪が当時の日本やスイスでは裁かれなかったため、元行員は無罪となりました。
日本カジノにおけるマネーロンダリング対策
日本は『マネロン天国』という汚名を着せられることも多く、IR施設設置に向けて対策が急がれます。
対策については、ラスベガスの反社会組織排除に成功したネバダ州やシンガポールの規制を参考に行われる可能性が高いです。
ここでは、例としてネバダ州の対策を取り上げながら、日本での規制がどのように検討されているかを解説していきます。
ネバダ州のマネーロンダリング対策とは
ネバダ州では経済対策としてカジノを合法化したことにより、マフィアが参入してマネーロンダリングも横行しました。
そこで、反社会勢力やマネーロンダリングなどの犯罪を防ぎつつ、カジノによる経済効果を出していくために、『ネバダ州法』と『ゲーミング規制法』が成立しました。
この規制では、FATF勧告を踏まえた国の法律に基づいてカジノを『疑似金融機関』として扱い、金融機関と同じような水準での対応を求めています。
また、カジノ事業に関わる株主から従業員に至るまで厳正な審査のもとライセンスを発行し、規定を守らせています。さらに、競馬・宝くじなどのギャンブルにも規定を設けています。
日本の法規制・運用方法はネバダ州の例を参考にすると想定されている
日本では『犯罪収益移転防止法』によって金融機関などに対する規制を行ってきましたが、カジノに対するマネーロンダリング規制の法整備はまだされていません。
しかし、IR施設設置で世界最高水準のカジノ規制を目指している日本では、FATF勧告やネバダ州のカジノ規制を元に以下の3点の導入が検討されています。
- カジノ事業者の内部管理体制の整備を、『犯罪収益移転防止法』で明確に義務付ける
- マネーロンダリング対策に対して、自己評価・内部監査の実施をカジノ事業者に義務付ける
- 一定金額以上のすべての現金取引に対して、カジノ管理員会への届出を義務付ける
またこの他にも、ネバダ州だけでなくカジノ誘致に成功しているシンガポールや、失敗例として有名な韓国の事例を参考にする可能性もあります。
【まとめ】マネーロンダリング (資金洗浄)の事例を知っておこう
マネーロンダリングは日本ではあまり馴染みがなく感じられるかもしれませんが、実際に事件も起きていますし諸外国より規制が緩いという弱みがまだまだあります。
しかし、ラスベガスやシンガポールなどの成功例、韓国やマカオの失敗例・克服例など、後発の日本では成功するための参考例が豊富に揃っているのが特徴です。
IR施設にカジノが併設される前に、正しい知識を身につけて適切な法規制が行われれば、目標としている『世界最高水準のカジノ規制』によって信頼性の高い運営を行うことも可能でしょう。
- マネーロンダリングには3つのプロセスがある
- マネーロンダリングはカジノで行われやすい
- 日本でもマネーロンダリングが行われている
- 日本では諸外国の事例や改善例を元に、世界最高水準のカジノ規制が求められる