カジノ法案は通称『IR推進法案』とも呼ばれ、正式名称を『特定複合観光施設区域(IR)の整備の推進に関する法律』と言います。
国際会議場やスポーツ施設、劇場や映画館、温浴施設、ホテルなどのカジノが併設可能な複合型リゾート施設(MICE施設)を設置していくための法案です。
この法案は深刻化する少子高齢化や経済の低迷に伴い、インバウンド誘致を主として経済復興を目的に2016年12月に可決されました。
しかし、日本はこれまでカジノやその運営が違法とされてきたため、IR施設としてカジノが設立される悪影響も懸念されています。
特にギャンブル依存症や汚職などが蔓延するのではないかと言った心配の声も少なくありません。
実際に、カジノ法案によってどのような影響があるのか?従来の賭博とはどう違うのか?カジノはいつできるのか?といった疑問に一つずつ詳細に解説していきます。
カジノ法案最新情報
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目 次
カジノ法案のメリット・デメリット
カジノ法案は、2020年の東京五輪誘致に伴って発案されたと思われがちですが、実は1999年に石原慎太郎東京都知事(当時)が打ち出した『お台場カジノ構想』がスタートとなっています。
発案当時から反対派と賛成派の意見がわかれ、カジノ法案が成立した後の現在に至るまで20年以上議論されてきました。
カジノ法案によって日本にどのような影響をもたらすのか、メリット・デメリットについてみていきましょう。
カジノ法案の3つのメリット



まず、カジノ法案のメリットとして以下の3つが挙げられます。
・観光客増加
・地域活性化
・財源確保
カジノ法案と聞くといかにもカジノだけを建設するようなイメージがあります。しかし、実際にはレストランやアミューズメントパーク、ホテルや温浴施設といった統合型リゾート施設がメインとなっており、カジノは全フロア中のわずか3%の面積のみに併設される予定です。
こういった大規模な統合型リゾート(IR)建設によって、インフラの整備で雇用増加や地域経済の活性化を促し、インバウンド増加による財源確保が期待されています。
また、オリンピックや万博などの大型イベント期間終了後に懸念される景気の低迷も、IRの経済効果によって下支えできる可能性が期待されています。
カジノ法案によるデメリット・問題点



対してカジノ法案によるデメリット・問題点には以下の3つがあります。
・マネーロンダリングの温床になる
・ギャンブル依存症の増加
・汚職問題
ギャンブルは中毒性が高く、国内にカジノがない現時点でもギャンブル依存症の疑いがある人が国内に約500万人はいると推定されています。
また金銭問題や犯罪組織による治安悪化や、マネーロンダリング・汚職問題なども懸念材料の一つです。
政府ではこういった懸念を解消すべく、1回6000円の入場料の徴収、入場回数の制限、本人確認などの対策を行う『IR実施法』や、依存症対策を義務付ける『ギャンブル等依存症対策基本法』を成立させるなど、様々な取り組みを行なっています。
日本のカジノ候補地一覧
日本のカジノの候補地は、各都道府県が誘致をしているため複数存在します。
その中から2022年前後に3箇所以内で決定される予定となっています。
それぞれアピールポイントが異なりますが、現時点では商圏が揃っている東京や横浜などの首都圏、万博を控えている大阪といった関西都市圏、または北海道や長崎、和歌山などの地域活性化を視野に入れた地方都市の3地域が主なエリア候補となっています。
特に2021年現在、大阪と長崎が一歩リードしており、どちらもすでにカジノの事業者となる候補グループの選定も進みつつあります。
カジノ誘致を行なっている各地域のIR事情に関する詳しい情報は以下で紹介しています。
日本にカジノはいつできるのか?オープンするまでの流れを振り返ってみた
カジノ法案が成立し続々と候補地が誘致をしているとなれば、次に注目されるのはオープンの時期です。
カジノ法案が提出された当初は、2020年東京オリンピック開催時期に合わせてオープンする計画でした。
しかし、様々な審議が長引いたため間に合わなくなりました。
候補地決定後、開発事業者の選定やインフラ整備、現在の情勢まで考慮していつ頃オープンとなるのか、今までの流れも含めて見ていきましょう。
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00衆議院総選挙・IRを推進する動きが始まる - 実際のIR誘致に関する下準備の段階です。
1999年に石原慎太郎元都知事がお台場カジノ構想を提唱後、反対派により構想案は暗礁に乗り上げました。しかし、2010年にお台場カジノ構想を元に統合型リゾートをオープンしたシンガポールの成功例を受け、カジノ法案の推進が再開されました。
2014年11月には自民党・維新の党の選挙公約にIRの推進が盛り込まれ、衆議院総選挙で自民党が勝利。2015年には与党3党によるIR推進法案提出が認められ、審議が本格化しました。
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01IR推進法の成立と施行 - IR推進法とは、『収益源となるカジノを認可した統合型リゾートを設置し、運営していくための土台づくりを行なっていこう』という内容の法律です。
カジノの収益によって地域のオリジナリティある自由な発想や民間事業者による運営を実現し、地域や日本経済の復興に役立てることを目的として全体的な枠組みが定められています。
2015年にIR推進法案が与党によって提出され、2016年12月に成立・施行されました。
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02IR推進本部設置 - IR推進本部は、2017年3月に内閣に設置されました。
正式名称を『特定複合観光施設区域整備推進本部』と言い、内閣総理大臣を本部長としてIRの整備を集中的に行なっていきます。
この機関は、IRによって『観光先進国』を実現するために必要な法律や、候補地の決定、適切に運営を監督するための役割分担の決定など、総合的な整備が行われます。また、この機関で閣議決定された内容は国会へ提出されます。
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03IR整備法(実施法)の成立と公布 - 2017年に複数回行われたIR推進本部の会議を経て、2018年4月にはIR整備法が国会へ提出され、同年7月に成立・公布されました。
IR整備法は正式名称を『特定複合観光施設区域整備法』、通称『カジノ法』と言います。IR推進法がIR設置のための全体的な枠組みであるなら、IR整備法はその枠組みに沿って入場料や規制措置・免許制度など、運営する上で具体的な必要となる規制を定めています。
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04ギャンブル等依存症対策基本法の成立 - IR事業で特に懸念されているギャンブル依存症対策は、IR推進法の成立によって2016年12月頃から政府での取り組みがスタートしました。
約2年にも渡る協議の結果、2018年7月に『ギャンブル等依存症対策基本法』が成立し、同年10月に施行されました。
この法律では初めてパチンコがギャンブルと認定され、ギャンブル等の依存症に対して医療体制の整備や社会復帰の支援など、国や地方公共団体などが行うべき義務などを定めています。
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05カジノ管理委員会の発足 - IR整備法の公布によって2020年1月に『カジノ管理委員会』が発足されました。
カジノ管理委員会は『政権から独立した強い権限を持つ三条委員会』として設置され、専門家達が世界最高水準のカジノ規制を行いながらクリーンなIR事業となることを目指して運営されます。
IR推進本部はIRを設置する前の法整備などを行う機関でしたが、カジノ管理委員会はIRオープン後の施設・機器などの規制や、納付金などの徴収、入場規制などによる依存症防止対策、国際連携など運営に関わる具体的な機能を担います。
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06基本方針の策定 - 基本方針では、IRの法令をどのように解釈するのか?どのように3箇所の候補地を決めるか?どのようなIRを作るか?といった方針が定められます。
当初は2020年1月に策定予定でしたが、IR汚職事件の影響で2020年の4月以降に延長されました。
現在は基本方針案のみが既に公表されている状態で、基本方針の策定はIR整備法の公布(2018年7月26日)から2年以内に行われることが定められています。
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07候補地の正式決定・IR開発事業者の選定 - 基本方針の策定後、方針に従って全国の候補地から3箇所以内を正式に決定していきます。
決定は、2025年頃のオープンが目標とされていることから逆算すると、2020年〜2022年の間に行われる見込みです。
既に誘致をしている各地域でIR開発事業者の公募などが行われていますが、事業者の選定が実際に行われるのは候補地正式決定の後となります。
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08IR開発~開業 - IR開発の開始は候補地と事業者の正式決定後なので、2022年以降になると予測されています。
開発はIR整備法や基本方針に沿いながらカジノ管理委員会の監督の元、各候補地と開発事業者によって行われていきます。
オープンは2025年頃が目標とされているので開発が急ピッチで行われる予定ですが、開催延期したオリンピックとの関連性や、新型コロナウィルスの影響でさらに後ろ倒しになる可能性もあります。
カジノ法案と賭博
カジノ法案は、日本の魅力を全世界の人々にアピールし、日本全国の観光地へインバウンドをつなげるハブ機能を兼ねたIR施設の設置が主要な目的です。
しかし、その運営費を施設全体の約3%を占めるカジノの収益から確保するシステムや、『カジノ法案』という名称そのもののイメージから、カジノに対する様々な懸念がされています。
カジノ法案を理解する上で、日本におけるカジノ法案と賭博との関係や、違法性も一緒に理解しておくことが大切です。
日本のカジノで採用されるであろうゲーム
日本で初めて採用されるカジノ施設。
世界から訪れる観光客は、日本のカジノでどんなゲームをプレイするのか?
気になるところです。
ここでは、日本のカジノで採用される可能性があるゲームを紹介していきます。
バカラ
『カジノの王様』として世界中のカジノで大人気の『バカラ』。
プレイヤーとバンカーの2役にカードを配り、カードの合計が「9」になる方を予測するゲームです。
カードは自分に配られるわけではなく、ポーカーやブラックジャックのような駆け引きも必要としません。
ただディーラーが配ったカードの合計数を予測すればいいので、初心者でも遊びやすいのが特徴です。
実際のカジノでは、伏せて配られたカードの端をディーラーがめくってチラ見してくれる『絞り(スクイーズ)』も行われます。自分の賭けが当たっているかどうか、プレイヤー達の熱気が高まる一瞬も醍醐味の一つです。
ブラックジャック
『ブラックジャック』は、プレイヤーとディーラーが直接勝負する対戦型のゲームです。配られたカードの合計が「21」以上にならずに「21」により近かった方が勝ちとなります。
自分の手札の合計数によって、次のカードを配ってもらうかどうかを決めていきますが、どの数字のカードが出る可能性が高いか?自分とディーラーの手札はどちらが有利か?などを見極めながら賭けていく面白さがあります。
また、時には必勝法を駆使してハウスエッジを上回る配当を掴めるゲームなので、世界中のギャンブラーに愛されています。
ルーレット
バカラ以外にカジノ初心者でも楽しめるゲームは、『カジノの女王』とも言われる『ルーレット』です。
ルーレットはディーラーがボールをスピンし、ボールがどこの数字や色・グループに落ちるかを当てます。
他のゲームと違って特別難しいルールはなく、ボールの落ちる場所を予測するだけで配当も一律なので、カジノが初めてでもすぐに楽しむことができるゲームです。
また、多くの必勝法を活用できるという特徴があるので、その魅力に惹かれたギャンブラー達に深く愛されています。
スロット
『スロット』は一般的に『ビデオスロット』と呼ばれていて、カジノではスロットマシンでプレイします。
カジノのスロットマシンは日本の一般的なスロットと違い、ライン数が豊富で自動的にスピンが停止するのが特徴です。特別なスキルや知識は必要なく、マシンに現金を投入したら自分が賭けたい金額とライン数を選択するだけでプレイ可能です。
機種によってはジャックポットを搭載していて一攫千金を狙えるものもあります。
参考:【IR施行規則案】日本のカジノで解禁されるゲーム9種類発表!
日本のカジノに入場制限は設けられるのか?
海外では、自国民のギャンブル依存症対策としてカジノの入場制限を設けている国もあります。
廉潔性の高い世界最高水準のカジノ規制を目指している日本では、2018年7月に入場制限についての具体的な内容がIR整備法によって可決・成立されました。
どのような制限が設けられるのか、簡単にみていきましょう。
日本人の入場料は6,000円
日本に設置されるカジノでは、外国人観光客の入場料は無料です。
しかし、日本人と日本に在住する外国人は1日(24時間以内)に6,000円の入場料が必要です。
これは、世界でも最も高額な入場料(約8,000円)を徴収するシンガポールの例に倣ったと考えられています。
金額だけ見るとシンガポールの方が高額に感じますが、1人あたりのGDPではシンガポールが日本より1.52倍高く、5270円前後がシンガポールの8000円と同等と見なされます。
つまりGDP換算した場合、入場料を徴収する世界のカジノの中では、日本が最も厳しい入場料制限を設けるということです。また、入場料の他に1週間に3回・28日間で10回までの回数制限も設けられます。
日本のカジノは21歳から入場できる
IR整備法では、原則20歳未満のカジノ入場は禁止されています。
つまり、カジノに入場できるのは競艇・競輪などの公営ギャンブルと同じ21歳以上ということです。
この制限も、全世界のカジノの中で最も厳しい年齢制限を設けているラスベガスやマカオ、シンガポールなどと同じ基準となっています。また、世界のカジノではドレスコードが設けられています。ドレスコードとは、例えば会社に出勤する際や冠婚葬祭などでラフな格好をせず、その場にあった服装をするというマナーです。日本のカジノでも他国同様、ドレスコードが設けられる可能性が高いことを想定しておきましょう。
【まとめ】カジノ法案を理解しておくのは非常に重要
カジノ法案は、IR施設全体の3%に設置されるカジノの収益をIR運用や日本社会の発展に役立て、インバウンド増加による経済発展を促していくための法律です。
その法案で最重要とされているのは単なる『カジノ併設』ではなく、大人も子供も楽しめる観光地(統合型リゾート)によって世界の人々に日本の魅力を伝えながら、インバウンドの恩恵を全国に行き渡らせること。
少子高齢化・消費の低迷・財政悪化など我が国は現在たくさんの問題を抱えていますが、それらを解決し、『観光先進国』として発展していくための、国を挙げた大きな取り組みなのです。
我々の生活や日本経済にも深く関係する法律でもあるので、詳しく知っておくことが大切です。